がん細胞を標的とした能動的(アクティブ)ターゲティング

ターゲティングDDS

がん細胞

がん(悪性腫瘍)は、「固形がん」と「血液がん」に大別される。さらに「固形がん」は、上皮細胞にできる「上皮細胞がん」とそれ以外の「非上皮細胞がん」の2つに分類される。

がんの特徴

  • 自立性増殖:がん細胞自身が他からの制約を受けずに勝手に増殖する
  • 浸潤と転移:がん細胞が組織内で増殖して周囲にしみ出るように広がる(浸潤)とともに、がん細胞が発生した部位から血流やリンパ流などを介して他の組織に移動し、そこに同様な組織変化を起こす
  • 悪質液:がんの進行に伴い、他の正常組織が必要とする栄養をどんどん奪ってしまい、食欲不振、体重や骨格筋の持続的な減少、倦怠感などの症状を呈し、体が衰弱する。

固形がん組織

がんは活発に細胞増殖を繰り返すため、直径数 mm 以上の固形癌では血管新生による酸素、栄養供給が腫瘍増大に必要である。これらを補うため、がん細胞からの血管内皮成長因子(vascular endothelial growth factor: VEGF)を分泌して、血管を新たにつくりだす(血管新生)。腫瘍組織中の血管は、元は正常組織の血管から伸長したにも関わらず、腫瘍血管に特有の特徴を有する。例えば、1)腫瘍血管系は全体として屈曲や湾曲が多く、血流が乱れている。2)不均一な基底膜、少ない壁細胞の被覆、3)神経系による収縮や弛緩も少ないなどの理由により、腫瘍組織では正常組織に比べて血管透過性は著しく亢進しているため、高分子や微粒子が血管から流出しやすい。また腫瘍組織では、リンパ系が未発達であることから、腫瘍血管から流出した物質はリンパ系からの回収を免れ、がん組織中で滞留しやすい。このような特性はEnhanced Permeability and Retention Effect(EPR効果)と呼ばれ、がん細胞に対する受動的(パッシブ)ターゲティングの重要な概念となっている。

 またがん組織では、低酸素低pH低栄養といったがん組織に特徴的な微小環境(がん微小環境)を示し、新たな治療標的として注目されている。

がん細胞表面の受容体及びリガンド

主な受容体・タンパク質主なリガンド・基質
トランスフェリン受容体トランスフェリン
葉酸受容体葉酸
HER2受容体EGF
EGF受容体EGF
VEGF受容体2VEGF
αVβ3インテグリン(環状)RGDペプチド
アシアロ糖タンパク質受容体(肝がん)ガラクトサミン
血管細胞接着タンパク質1(VCAM-1, CD106)α4インテグリン
CD10(cALLA)ペプチド
CD19HMGB1(High Mobility Group Box 1)
CD20unkown
癌胎児性抗原(CEA)L-セレクチン、E-セレクチンなど
LDL related peptide (LRP)Angiopep-2
IL-4受容体IL4RPep-1
シグマ受容体アニスアミド、オピオイド、性ホルモンなど
膜型マトリックスメタロプロテアーゼ1(MT1-MMP)GPLPLR、Ⅰ型コラーゲン、ラミニン5、CD44など
潜在型マトリックスメタロプロテアーゼ2(MMP2)IV 型コラーゲンなど
アミノペプチダーゼN(APN, CD13)NGR、コロナウイルスの受容体
CD44受容体(がん幹細胞)ヒアルロナン(ヒアルロン酸)
ヌクレオリンAS-1411(アプタマー)
テネイシンCGBI-10(アプタマー)
受容体やタンパク質に対する抗体はリガンドとして利用可能

がん細胞への能動的ターゲティング製剤:レザフィリン

悪性腫瘍に対する光線力学的療法(Photo Dynamic Therapy)は、腫瘍細胞に集積性を有する光感受性物質を投与した後、腫瘍組織にレーザ光を照射することにより、レーザ光を吸収した光感受性物質が、励起一重項酸素分子を生成し、当該分子が非特異的に腫瘍細胞及び腫瘍血管を傷害することで腫瘍増殖を抑制すると考えられている治療法である。

商品名    レザフィリン
一般名タラポルフィンナトリウム
標的細胞早期肺癌、脳腫瘍
効能・効果早期肺癌(病期0期又はⅠ期肺癌) 原発性悪性脳腫瘍(腫瘍摘出手術
を施行する場合に限る)
用法静脈内注射後にレーザ光を病巣部位に照射する。
特徴タラポルフィンナトリウムは、植物クロロフィル由来の光感受性物質である。タラポルフィンナトリウムは、クロリン骨格にアスパラギン酸をアミド結合させた化合物であり、腫瘍集積性が高く(おそらくアミノ酸トランスポーターの発現上昇)、光線力学的療法 (Photodynamic Therapy、以下 PDT)により抗腫瘍効果を示す。

タラポルフィンナトリウムは、日本石油化学株式会社(現 JX 日鉱日石エネルギー株式会社)により探索された植物クロロフィル由来の PDT 用光感受性物質であ
り、2003 年 10 月に「早期肺癌」、2013 年 9 月に「原発性悪性脳腫瘍」を効能・効果として承認されている。

抗体薬物複合体(Antibody Drug Conjugate; ADC)

選択的・効果的にがん細胞に対して殺細胞効果を示すことで、既存の化学療法剤と比較して強力かつ広範な治療域が期待される抗体と薬物(抗がん)との結合体

一般名商品名適用承認年
ゲムツズマブ オゾガマイシンマイロターグ再発・難治性のCD33陽性の急性骨髄性白血病2005年
(2010年撤退)
2017年再承認
トラスツマブ エムタンシンカドサイラHER2陽性の手術不能・再発
乳癌
2013年
ブレンツキシマブ ベドチンアドセトリスCD30陽性のホジキンリンパ腫、
再発・難治性未分化大細胞
リンパ腫
2014年
イノツズマブ オゾガマイシンベスポンザ再発・難治性のCD20陽性の
急性リンパ性白血病
2018年
Moxetumomab pasudotoxLumoxiti再発・難治性有毛細胞白血病2018年
Polatuzumab vedotinPolivy進行・再発びまん性大細胞型
B細胞リンパ腫
2019年
Enfortumab vedotinPadcev尿路上皮がん2019年
セツキシマブ サロタロカンナトリウム
※BioBlade(R)レーザシステムと組み合わせて使用
※※光免疫療法
アキャルックス切除不能な局所進行又は
局所再発の頭頸部癌
2020年
トラスツズマブ デルクステカン
エンハーツHER2陽性乳がん、
HER2陽性胃癌(日本のみ)
2020年
Sacituzumab govitecanTrodelvy再発・難治性の転移性トリ
プルネガティブ乳がん
2020年
Belantamab mafodotinBlenrep再発・難治性の多発性骨髄腫2020年

【参考資料】

  1. F. Danhier et al. To exploit the tumor microenvironment: Passive and active tumor targeting of nanocarriers for anti-cancer drug delivery. J. Control. Release, 148(2), 135-146 (2010).
  2. J. Yoo et al. Active Targeting Strategies Using Biological Ligands for Nanoparticle Drug Delivery Systems, Cancers, 11, 640 (2019)
  3. 図解で学ぶDDS 第2版、橋田 充 (監修), 高倉 喜信 (編集)、じほう(2016)
  4. ドラッグキャリア設計入門 DDSからナノマシンまで、片岡 一則 (編集), 原島 秀吉 (編集)、丸善出版(2019)

【参考ウェブサイト】

1.国立がん研究センターがん情報サービス、知っておきたいがんの基礎知識  https://ganjoho.jp/public/dia_tre/knowledge/basic.html

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