特徴(利点)
☆生体膜を構成するリン脂質などを水中で分散させたときに形成される脂質二分子膜からなる閉鎖小胞
☆水溶性・脂溶性薬物のキャリアとなる。リポソーム製剤と呼ばれる。
・水溶性薬物はリポソームの内水相に存在
・脂溶性薬物はリポソーム脂質二重膜に存在
☆有効成分の生体内安定性の向上、標的部位へのターゲティング、血中滞留性の向上、細胞内動態の改善などが可能。

種類
【サイズと膜構造で分類】
略称 | 英語名称 | 名称 | 直径 | 代表的な調製法 |
SUV | small unilamellar vesicle | 小さな単層膜リポソーム | 数十nm | 超音波処理法 エタノール注入法 アルコール希釈(沈殿)法 フレンチ・プレス法 |
LUV | large unilamellar vesicle | 大きな単層膜リポソーム | 100~1000 nm | エーテル注入法 コール酸(界面活性剤)法 Ca2+融合法 凍結-融解法 逆相蒸発法 |
GUV | giant unilamellar vesicle | 巨大一枚膜リポソーム | 1 μm 以上 | 静置水和法 有機溶媒除去法 |
MLV | multilamellar vesicle | 多重層リポソーム | 0.2~5 μm | Bangham法 水和法 ボルテックス法 |
他に、OLV(Oligolamellar vesicles, 0.1~1 μm)、UV(Unilamellar vesicles, 全てのサイズ)、MUV(Medium sized unilamellar vesicles)、MV(Multivesicular vesicles, 1 μm)、SPLV(Stable plurilamellar vesicles)も知られている。
【調製法による分類】
REV | Single/Oligolamellar vesicles made by reverse phase method | 逆相法 |
MLV-REV | Multilamellar vesicles made by reverse phase method | 逆相法 |
FATMLV | Frozen and thawed MLV | 凍結融解法 |
VET | Vesicles prepared y extrusion technique | エクストリュード法 |
DRV | Dehydration-rehydration method | 脱水-再水和法 |
近年、マイクロ流体デバイスを使った調製法が増加している。
【電荷による分類】
電荷 | 脂質 | 特徴 |
カチオン性 | 4級アンモニウム 3級アミン | ・4級アンモニウム(DOTAP, TMAG, DOTMAなど): 正電荷を示すため、遺伝子や核酸医薬と相互作用する。 トランスフェクション効率高い一方、細胞障害性を 示したり、血清成分に非特異的に結合する場合がある。 ・3級アミン(例 DODAP, DLin-KC2-DMAなど): 環境中のpHが低下すると(エンドソームやリソソーム に移行する)と中性から正電荷に変化する(pH感受性) |
中性 | ジミリスチルPC(DMPC) ジパルミトイル PC(DPPC) ジステアリル PC(DSPC) ジオレオイルホスファチジルエタノールアミン(DOPE) コレステロールなど | ・リポソームの調製に必要な脂質 ・PEはPCよりも親水部分が小さいため、炭化水素鎖 がかさ高いコーン型の分子構造を示し、膜融合性に優れる。 ・コレステロール:リポソーム膜の物性に影響を与える。 ・生体内に投与した場合、異物として認識され、肝臓や 脾臓などの細網内皮系(reticuloendothelial system: RES)組織に捕捉され、速やかに血中より消失しやすい。 |
アニオン性 | ホスファチジン酸(PA)ホスファチジルセ リン(PS) ホスファチジルグリセ ロール(PG) | ・静電反発力によりリポソームの凝集体形成抑制 ・スカベンジャ―受容体による取り込み |
【機能性による分類】
種類 | 要素 | 特徴 |
PEG修飾リポソーム (ステルスリポソーム) | PEGの分子量が2000または5000を使用 | リポソーム表面に水和層を形成し、生体内に投与後の細網内皮系組織への捕捉を抑制(RES回避)し、血中滞留性が向上する。 固形がん組織に EPR効果(Enhanced Permeability and Retention Effect)により、受動的ターゲティングが可能。 |
糖鎖修飾リポソーム | マンノース、ガラクトース、フクース | マンノース、フコース:抗原提示細胞、クッパー細胞、肝血管内皮細胞などへのターゲティング ガラクトース:アシアロ糖タンパク質受容体発現肝実質細胞へのターゲティング |
糖鎖修飾リポソーム | シアリルルイスX ヒアルロン酸 | 炎症部位へのターゲティング |
抗体導入リポソーム (イムノリポソーム) | 抗EGFR抗体 抗HER2抗体 抗CD19抗体 抗CD20抗体 | 腫瘍細胞に対するアクティブターゲティング |
抗体導入リポソーム (イムノリポソーム) | 抗トランスフェリン抗体 | トランスフェリン受容体発現腫瘍細胞に対するアクティブターゲティング BBBを介した脳へのターゲティング |
リガンド導入リポソーム | オクタアルギニン(R8) | 膜透過ペプチド(CPP)修飾による細胞透過性の向上 |
リガンド導入リポソーム | RGDペプチド | インテグリンαvβ3発現腫瘍細胞へのターゲティング |
リガンド導入リポソーム | 葉酸 | 葉酸受容体発現癌細胞及び腎尿細管上皮細胞へのターゲティング |
リガンド導入リポソーム | トランスフェリン | トランスフェリン受容体発現腫瘍細胞に対するアクティブターゲティング BBBを介した脳へのターゲティング |
アプタマー修飾リポソーム | TSA14 | HER2受容体発現がん細胞へのターゲティング |
アプタマー修飾リポソーム | sgc8 | protein tyrosine kinase 7発現腫瘍細胞へターゲティング |
膜融合リポソーム (フュージョンリポソーム) | センダイウイルス(HVJ) | HVJの細胞膜融合能をリポソームへ付与。 細胞膜から直接、細胞質に内封物質を導入する。 |
膜融合リポソーム (フュージョンリポソーム) | pH感受性ペプチド インフルエンザウイルス由来のヘマグルチニン | リポソームが細胞にエンドサイトーシス後、エンドソームと融合して内包物質を細胞内に導入する。 |
膜融合リポソーム (フュージョンリポソーム) | 膜融合脂質DOPE | DOPEはコーン型分子で、周囲の環境(pH、イオン強度など)により会合状態が変化する。この DOPE を主成分とするリポソームは、弱酸性領域で内封した薬物を放出したり、膜融合する。 細胞内にエンドサイトーシス後、エンドリソソーム膜と融合し、内封薬物を細胞質に放出する。 |
熱感受性リポソーム (温度感受性リポソーム) | 温度感受性高分子 ジパルミトイルホスファチジルコリ(DPPC) | 相転移温度が41℃のDPPCを膜成分に用いると、体温である 37 ℃ではゲル状態で、42 ℃以上になると液晶状態になって膜透過性が高まり、熱(温度)依存的に内封した薬物をリポソーム外に放出される。がん温熱療法(ハイパーサーミア)と組合せて用いられる場合もある。 |
熱感受性リポソーム (温度感受性リポソーム) | 両親媒性ポリペプチド | 親水性と疎水性を示す部位を持つポリマー分子で、水中において疎水性相互作用により分子集合体を形成する。 両親媒性ポリペプチドとリン脂質DMPCを適当な割合で混合すると、均一な球状カプセルが得られる。がん温熱療法(ハイパーサーミア)と組合せて用いられる場合もある。 |
バブルリポソーム | 超音波造影剤に利用されているパーフルオロプロパン(C3F8)のナノバブル | C3F8のナノバブルを封入したPEGやリガンドなどを修飾 したリポソームを体内に投与後、目的の部位でバブルリポソームに治療用超音波を照射するとキャビテーションが誘導され、細胞に内封物質(薬物・核酸・タンパク質)などを導入することができる。超音波診断・治療(セラノスティクス:theranostics)のための新たなツールとして医療応用が期待される。 |
低酸素反応リポソーム | ニトロイミダゾール | 低酸素細胞に集積し、酸素に類 似した働きをすることにより放射線感受性を高め、がん細胞に対して殺細胞効果を示す。 |
ホウ素高集積化リポソーム | ホウ素イオンクラスター(mercaptoundecahydrododecaborate; BSH)などのホウソ化合物を封入したリポソーム | 静脈内投与後、がん組織に集積したリポソームに対して中性子を照射すると、リチウムとヘリウム(α線)を発生し、がん細胞に対して殺細胞効果を示す。いわゆる、ホウ素中性子補足療法(Boron Neutron Capture Therapy; BNCT)に利用されている。 |
リポソームの欠点
- 内部水相の容積が小さいため、水溶性薬物の包含効率が低い。
- GMPに対応できる大量調製法が容易でない。
- 安定性の確保が容易でない。
- 全身投与後、細網内皮系(RES)に貪食されやい→PEG修飾や糖鎖修飾により改善。
- リポソーム化による新たな副作用の発現:インフュージョンリアクション、手足症候群。
- Accelerated Blood Clearance(ABC)現象の可能性。
- ヒトでは実験動物に比べてEPR効果が低い。間質が厚い(間質密度が高い)。
【参考資料】
- リポソーム、野島庄七、砂本順三、井上圭三(編)、南江堂、1988年
- ライフサイエンスにおけるリポソーム 実験マニュアル、寺田 弘、吉村哲郎(編)、シュプリンガー・フェアラーク東京、1992年
- Advances in liposomal drug delivery to cancer: An overview, Shivani Saraf et al., Journal of Drug Delivery Science and Technology, 56, 101549 (2020).
【参考ウェブサイト】
- A CONCISE REVIEW ON LIPOSOMES DRUG DELIVERY SYSTEM、Bhandari Saloni et al., 2020, https://www.pharmatutor.org/articles/a-concise-review-on-liposomes-drug-delivery-system
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