
人工知能とプレシジョンDDS(PDDS)
人工知能と創薬
製薬協のホームページによると、新薬を開発するための技術は、非常に高度かつ複雑であるため、世界を見渡しても新薬創出国は数えるほどしかなく、その中で、日本は新薬の開発品目数において、世界第2位を誇るとのこと。しかし新薬の開発に要する時間は9~16年、新薬として販売に至る化合物は全体の約25,000分の1(製薬協調べ)であることと書かれている。また日本SMO協会のホームページには、新薬の開発は候補物質の探索(基礎研究)にはじまり、さまざまな研究や試験を行っているが、約10年以上(10~18年)もの長い開発期間と200~300億円もの費用がかかるといわれていると記されている。このように新薬の研究開発には、長期間かつ莫大な費用がかかり、新薬を生み出す確率は極めて低い。そのため、新薬開発の成功確率の向上及び効率化を図るために、人工知能(artificial intelligent)が利活用されている。次のサイトがとても参考になるので、興味のある方はご覧ください。
創薬へのAI活用について背景や課題などを解説
デジタルトランスフォーメーションチャンネル https://www.digital-transformation-real.com/blog/background-and-issues-regarding-the-use-of-ai-for-drug-discovery
AIは創薬の課題を解決できるのか?【AIが創薬に及ぼす影響】
AINOW https://ainow.ai/2019/11/27/180331/
実際、今年の初め、大日本住友製薬が英国のExscientia(エクセンティア)の人工知能を活用して創製した化合物の臨床試験に入ったとのニュースも今年の初めに流れ、注目を集めました。また最近、類似のニュースを頻繁に見る機会が増えてきた。
ここで人工知能、機械学習、ディープラーニングについて簡単に纏めておく。
分類 | 説明 | ||
人工知能 | 確立した学術的な定義や合意がない。人工知能学会では、人工知能研究には「人間の知能そのものをもつ機械を作ろうとする立場」、「人間が知能を使ってすることを機械にさせようとする立場」の2種類があると示し、実際の研究のほとんどは後者と記している。また、人工知能は、次の2つに大別される。さらに、人工知能は、強いAIと弱いAIという分類もあり、強いAIは意識や自我を持つAIとされている。 | ||
汎用人工知能 | 様々な思考・検討を行うことができ、初めて直面する状況に対応できる人工知能 | ||
特化型人工知能 | 特定の内容に関する思考・検討にだけに優れている人工知能 | ||
機械学習 | 人工知能に関わる分析技術であり、「データから規則性や判断基準を学習し、それに基づき未知のものを予測、判断する技術」と人工知能に関わる分析技術。 | ||
教師あり学習 |
正解に相当する教師データが与えられ、主に回帰や分類に利用される。代表的な分析手法:回帰、分類、代表的学習アルゴリズム:線形回帰、決定木、サポートベクターマシーン、ランダムフォレスト |
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教師なし学習 |
教師データがなく、データのグループ分けや情報の要約に利用される。代表的分析手法:クラスタリング、アソシエーション分析、ソーシャルネットワーク分析、代表的アルゴリズム:K平均法、Aprioriアルゴリズム |
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強化学習 | 試行錯誤を通じて、報酬(評価)が得られる行動や選択を学習する。 | ||
深層学習 (ディープラーニング) |
機械学習の一つの技術。より基礎的で広範な機械学習の手法であるニューラルネットワークという分析手法を拡張し、高精度の分析や活用を可能にした手法。ニューラルネットワークは入力層、中間層(隠れ層)、出力層の3層から成り立つが、深層学習は、中間層(隠れ層)を2層以上に多層化したニューラルネットワークである。 |
人工知能とドラッグデリバリーシステム(DDS)
人工知能をドラッグデリバリーシステム(DDS)活用した例は創薬に比べてまだ少ないようである。しかし、5年前の論文でも、人工知能とDDSや薬物動態・毒性(ADMET)との関係についても記述されている。この論文では、次のような例が示されている。
1)DDSのプレフォーミュレーション及びフォームレーションの設計と最適化(例:個々のコンポーネント及びデリバリーシステム全体の薬物放出予測)
2)in vitro-in vivo相関の予測
3)定量的な構造-物性関係のモデリング
4)薬物の安定性の予測(薬物の保存期間の予測や薬物送達システムの安定性)
5)吸収・分布・代謝・排泄・毒性(ADMET)の予測
今回は、人工知能と創薬・DDSのことをごく簡単に触れたが、今後、人工知能を活用したプレシジョンDDSの設計と評価に関する内容も取り上げていく予定である。
参考ウェブサイト
- 製薬協、製薬産業の取り組み http://www.jasmo.org/ja/business/flow/index.html
- 日本SMO協会、くすりができるまで http://www.jasmo.org/ja/business/flow/index.html
- 総務省 ICTスキル総合習得教材、[コース3]データ分析、3-5:人工知能と機械学習 https://www.soumu.go.jp/ict_skill/pdf/ict_skill_3_5.pdf
参考資料
- The Role of Machine Learning in Drug Design and Delivery, Jonathan P Bernick, J Develop Drugs, 4:3 (2015)
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