肝臓を標的とした能動的(アクティブ)ターゲティング

ターゲティングDDS

能動的ターゲティングとは

リガンド(糖、ホルモン、ペプチド)、受容体、抗体などの分子認識機能を付与することで、特定の部位(標的組織や細胞)に選択的に薬物を届ける方法。その特性から「ミサイルドラッグ」や「魔法の弾丸(Magic bullets)」と呼ばれることもある。

肝臓

正常ヒト成人の肝重量は体重の約1/501.0 – 1.5 kg

肝臓は、肝動脈と門脈の2つの血管により栄養を受け、血流は中心静脈、肝静脈を経て肝外へと流れる。肝動脈は、下行大動脈から分岐した腹腔動脈の枝である総肝動脈が固有肝動脈となり右肝動脈と左肝動脈へと分かれて肝内へ入る。脈とは、消化管を流れた血液が集まって肝臓へと注ぎ込む部分の血管肝臓から出た総胆管はファーター膨大部の手前で膵管と合流して、十二指腸と繋がる。なお、総胆管の途中に胆嚢がある。

肝細胞、胆管細胞、類洞内皮細胞、
クッパー細胞、星細胞、ピット細胞から構成される。

細胞表面の受容体とリガンド修飾薬物またはリガンド修飾キャリア(薬物担体)との関係

肝臓における主な標的細胞

細胞 特徴 主な受容体 主なリガンド

肝実質細胞

hepatocyte

(肝細胞)

肝臓の60-80%を構成する細胞。タンパク質の合成と貯蔵、炭水化物の変換、コレステロール、胆汁酸、リン脂質の合成、並びに薬物等の代謝、排出に関与する。また、胆汁の生成と分泌を促進する。 アシアロ糖タンパク質受容体(ASGP-R) ガラクトース、ラクトース、N-アセチルガラクトサミン(GalNAc)
HDL受容体(HDL-R) HDL(apoA-I, apoA-II)
LDL受容体(LDL-R) LDL (apoB-100), VLDL・IDL(apoE)
IgA受容体(IgA-R)

IgA

スカベンジャー受容体クラスBI(SRBI)

HDL-CE、酸化LDL、アセチル化LDL、C型肝炎ウイルス

トランスフェリン受容体(Tf-R)

トランスフェリン

インスリン受容体(IR)

インスリン

CAR(coxsackievirus and adenovirus receptor)

アデノウイルス(ベクター)

ナトリウムタウロコール酸共輸送体(NTCP)+上皮成長因子受容体(EGFR)

B型肝炎ウイルス

CD81

 

C型肝炎ウイルス

 

 

 

 

 

 

クッパー細胞

Kupffer cells
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 






クッパー細胞とは、肝臓を構成する微小組織の
一つで、類洞に存在する常在性マクロファージ
の一種。物質の貪食取り込みを行う免疫機能を
有する。細網内皮系(RES)を構成する細胞の一つ。







マンノース受容体/N-アセチルグルコサミン受容体

マンノース、フコース、N-アセチルグルコサミン(Glc-NAc)

スカベンジャー受容体(クラスAI, BI, BII, MARCO, CD36, マクロシアリン)

 

アセチル化LDL、酸化LDL, HDL、ポリアニオン

Fcγ受容体(FcγR)

IgG(Fc部分)

Fcα受容体(FcαR)

IgA(Fc部分)

補体受容体(C3b, C1q)

補体(C3b, C1q)

リポ多糖(LPS)受容体

LPS

α2マクロブロブリン受容体

α2マクロブロブリン

 

 

肝類洞内皮細胞

Sinusoidal Endothelial Cells (SEC)


 
 

肝臓の類洞は特殊な内皮細胞で隔てられ、この内皮と肝細胞との間にはデイッセ腔と呼ばれる間隙がある。類洞内皮には径約100nmの小さな孔が開いており、この小孔を通して血液の液性成分やカイロミクロンのような小粒子は自由にディッセ腔へ流入し、肝細胞の細胞膜に到達する。類洞内皮細胞は血中へ放出された
ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸、変性コラーゲンなどの巨大分子を受容体を介して特異的に細胞内に取り込む。

 
 

マンノース受容体/N-アセチルグルコサミン受容体

マンノース、フコース、N-アセチルグルコサミン

Fcγ受容体

IgG(Fc部分)

スカベンジャー受容体(クラスAI, AII)

アセチル化LDL、酸化LDL

ヒアルロン酸受容体

ヒアルロン酸

肝星細胞

Hepatic Stellate Cell (HSC)

(伊藤細胞、類洞周囲脂肪細胞)

類洞周囲腔(ディッセ腔)に存在する線維芽細胞の一つ。脂肪の取り込みが強く、ビタミンAを貯蔵する機能を有する。肝傷害時に活性化されると、肝細胞の再生に必要なHGF等のサイトカインを分泌し肝再生を促進する一方、コラーゲンやTGF-βを産生して肝臓の線維化にも関わることが知られている。肝硬変の成因にも関連している。








マンノース6リン酸受容体

マンノース6リン酸

レチノールタンパク質受容体

 

ビタミンA/レチノール結合タンパク質複合体

 

インスリン様成長因子II受容体

インスリン様成長因子II

 

α2マクログロブリン受容体

α2マクログロブリン

 

コラーゲンタイプVI受容体

VI型コラーゲン

 

フェリチン受容体

フェリチン

 

ウロプラスミノーゲン受容体

ウロプラスミノーゲン

 

血小板由来増殖因子受容体β

血小板由来増殖因子

 

トロンビン受容体

トロンビン

 

ピット細胞


 

 

 

肝臓に常在するNatural Killer (NK)細胞の一つ。NK細胞は、MHC class Iを発現していない細胞に対して、抗原の感作なしに、細胞障害作用を発揮する。肝臓の腫瘍やウイルス感染の成立と進展阻止に重要な役割を果たしている。



CD16 (FcγRIII)

IgG (Fc部分)

CD56 (NCAM, NKH1, Leu-19)

FGFR1

CD94 (NKG2)

MHC class I

CD57 (HNK-1, Leu-7)

laminin, L-selectin, P-selectin, amphoterin

 

肝実質細胞への能動的ターゲティング製剤:アシアロシンチ

商品名アシアロシンチ
一般ガラクトシル人血清アルブミンジエチレントリアミン五酢酸テクネチウム
標的細胞肝実質細胞
効能・効果   シンチグラフィによる肝臓の機能及び形態の診断
用法静脈内投与し,胸腹部前面に検出器を向け,投与直後から経時的にシンチグラムを得るとともに,データ収集及び処理を行うことにより,肝機能指標を得る。
特徴実質細胞表面のアシアロ糖タンパク質受容体(ASGP-R)を介して細胞内に取り込まれる。
肝細胞への移行は、肝機能障害時に、細胞障害の程度に応じて減少する。
→急性肝炎、慢性肝炎、肝硬変などの重症度評価、肝腫瘍、肝内胆管癌、肝移植などに伴う
 局所肝機能評価などに有用。

肝実質細胞への能動的ターゲティング製剤:オンパットロ

商品名オンパットロ
一般名パティシランナトリウム
標的細胞肝実質細胞
効能・効果   トランスサイレチン(TTR)型家族性アミロイドポリニューロパチー
用法3週に1回点滴静注
特徴オンパットロの有効成分であるパチシランはTTR mRNAを特異的に標的とし、TTRタンパク質の発現を抑制する世界で初めてのsmall interfering RNA(siRNA)。
パチシランは、循環血中のTTRタンパク質の主な産生場所である肝臓の肝細胞への薬物送達を目的に脂質ナノ粒子(Lipid Nanoparticle:LNP)として製剤化。
本剤は肝細胞において野生型および変異型TTRタンパク質の産生を抑制することにより、トランスサイレチン型家族性アミロイドポリニューロパチーにおけるアミロイドの組織沈着を抑制する。

静脈内投与後、血液中でLNPにApoEが結合し、肝実質細胞上のLDL-R(LDL受容体)を介して細胞内にエンドサイトーシスされる。

肝実質細胞への能動的ターゲティング製剤:GIVLAARI(日本では薬事承認申請中)

商品名GIVLAARI(米国名)
一般名   ギボシランナトリウム
アミノレブリン酸合成酵素 1(ALAS1)を標的とする RNAi 治療薬
標的細胞    肝実質細胞
効能・効果     急性肝性ポルフィリン症
用法1ヶ月に一回皮下注射
特徴ギボシランナトリウムはN-アセチルガラクトサミン-siRNA結合体である。
皮下投与後、血液中に移行し、肝実質細胞膜上のアシアロ糖タンパク質受容体(ASGP-R)を介して、siRNAを肝実質細胞に能動的にターゲティングする。

肝実質細胞への能動的ターゲティング製剤:OXLUMO(日本では未承認)

商品名OXLUMO(米国名)
一般名lumasiran(ルマシラン)
ヒドロキシ酸オキシダーゼ 1(HAO1)を標的とする RNAi治療薬
標的細胞肝実質細胞
効能・効果     原発性高シュウ酸尿症Ⅰ型(PH1)
用法1ヶ月に一回皮下注射
特徴lumasiranは、ギボシランと同様に、N-アセチルガラクトサミン-siRNA結合体である。皮下投与後、血液中に移行し、肝実質細胞膜上のアシアロ糖タンパク質受容体(ASGP-R)を介して、siRNAを肝実質細胞に能動的にターゲティングする。

クッパー細胞への能動的ターゲティング製剤:リゾビスト注

商品名リゾビスト注
一般名フェルカルボトラン
標的細胞    クッパ―細胞
効能・効果     磁気共鳴コンピューター断層撮影(MRI撮影)における肝腫瘍の局在診断のための肝臓造影
用法静脈内投与
特徴カルボキシデキストラン(負電荷高分子)で被覆された超常磁性酸化鉄の親水性コロイド液からなる注射剤

静注後、正常な肝臓の細網内皮系細胞であるクッパ―細胞にスカベンジャー受容体を介して取り込まれることにより、MRI信号を低下させる。一方、クッパ―細胞を有さない肝臓の悪性腫瘍では、MRI信号が低下しないため、MRI画像のコントラストを向上させる肝特異性MRI造影剤として有用。

【参考資料】

1.N. Mishra et al. Efficient Hepatic Delivery of Drugs: Novel Strategies and Their Significance, Biomed Res Int. 382184 (2013).

2. 恩地森一、肝臓における免疫応答と疾患、日消誌、101: 146-154 (2004).

3. 和氣 健二郎、お茶の水醫学雑誌、60: 121-132 (2012).

4. H. Kared et al., CD57 in human natural killer cells and T‑lymphocytes, Cancer Immunol Immunother 65:441–452 (2016).

5.アシアロシンチ アシアロシンチ 添付文書・インタビューフォーム

6.オンパットロ 添付文書・インタビューフォーム

7.リゾビスト注 アシアロシンチ 添付文書・インタビューフォーム

【参考ウェブサイト】

  1. GIVLAARI ウェブサイト https://www.givlaari.com/
  2. OXLUMOウェブサイト https://www.oxlumo.com/about-oxlumo

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