腸管に存在する特殊な細胞:パイエル板M細胞

吸収促進DDS

くすりの投与ルートには、経口、経口腔、経皮、経肺、経血管、経直腸、経眼、経膣、経鼻、経耳、経脳室、経髄腔などが存在する。その中で、経口ルートは、薬剤の服用が容易なためコンプライアンスが良好であること、錠剤・カプセル剤・散剤など様々な剤形が適用可能なこと、安全性が高いことなどから、最も汎用されている。経口投与された薬剤は、食道、胃を経て、小腸に到達し、小腸から主に吸収される。小腸の構造は次の通りである(図1)。

図1.小腸と大腸 Elionas2によるPixabayからの画像

小腸は胃に近い方から、十二指腸(長さ約25 cm, )、空腸(長さ約2.4 m)、回腸(長さ約3.6 m)の3つの部位から構成される。ただし、体内における実際の小腸の長さは筋肉の収縮により3 m程度と言われている。小腸の粘膜は粘膜上皮、粘膜固有層、粘膜筋板で構成される。小腸の内側粘膜は輪状ヒダを持ち、粘膜表面には、絨毛(高さ約0.5~1.2 mm)が存在し、さらにその表面には微絨毛(高さ1 μm)が多数存在する。そのため、小腸の総面積は200 m2 と体表面積の約100倍、シングルステニスコートの面積(シングルスコート:約195.63㎡、因みにダブルスコート:約260.76 ㎡)に匹敵する表面積を有している。

小腸からの薬物吸収(経口バイオアベイラビリティ)に関しては、リピンスキー(Lipinski, CA) のルールオブファイブ(リピンスキーの5のルール)が知られている。次の項目のうち、いずれか2つに当てはまらない化合物は小腸からの薬物吸収が悪いとされる。それゆえ、薬物の分子量が500より高く、分配係数(Log P)が5未満の、例えば、水溶性の中分子薬物(ペプチド性医薬や核酸医薬など)や高分子薬物(タンパク質性薬物や遺伝子医薬)の経口バイオアベイラビリティは低いことがよく知られている。

・薬物の分子量が500以下

・薬物分子構造内に水素結合ドナー基 (OH, NH) が5個以下

・薬物分子構造内に水素結合アクセプター基 (N, Oなど) が10個以下

・薬物分子のオクタノール-水 分配係数 (Log P) が5以下

リピンスキーの法則 wikipedia  https://ja.wikipedia.org/wiki/リピンスキーの法則

ただし、グルコースやアミノ酸や水溶性ビタミンなどは生体に必須の化合物であるため、消化管に吸収トランスポーターが存在するため、ルールオブファイブに適合していない物質であっても小腸から吸収される。
 一般に、タンパク質性医薬、ペプチド性医薬、核酸医薬、遺伝子医薬、多糖体などの経口バイオアベイラビリティ―は低い。それゆえ、これまでこれらの薬物の経口バイオアベイラビリティ―向上のために様々な研究が行われてきた。その中で、シクロスポリンはネオーラル®カプセル(自己乳化型マイクロエマルション製剤による経口バイオアベイラビリティの改善)、セマグルチドはリベルサス®錠(吸収促進剤SNACの吸収促進作用により胃からの吸収を促進)の画期的な製剤が開発されている。しかしながら、タンパク質性医薬、ペプチド性医薬、核酸医薬、遺伝子医薬、多糖体の経口吸収製剤は少ないのが現状であり、開発が望まれている。

マイクロフォールド細胞(M細胞)

腸管のリンパ組織の代表格であるパイエル板 (Peyer’s Patches, PP)は、濾胞被蓋上皮(Follicle Associated Epithelium, FAE) に覆われ、そこには特殊な上皮細胞であるマイクロフォールド細胞(M細胞)が散在している(図2)。M細胞は、中分子や高分子や微粒子(リポソーム製剤など)を捕捉する機能を有する。ただし、M細胞はヒトFAEの約5%、腸管表面全体の1%未満しか存在しない。M細胞は微粒子や抗原をトランスサイトーシスによってパイエル板の内側に輸送する。輸送された抗原はM細胞の近傍に存在する抗原提示細胞に運搬され、細胞内でペプチドに分解され、さらにMHC分子上に抗原提示されることにより、リンパ球の活性化を介して、分泌型IgAを主体とした粘膜免疫応答を惹起する。最近、このメカニズムの意義を考える上で、「ドームトラップ」という概念が提案されている。例えば、中分子薬物や高分子薬物の全身作用を期待する場合には、「ドームトラップ」を克服する方が望ましいのに対して、経口免疫応答を最大化するためには「ドームトラップ」のエントラップメント能力を利用するのが好ましい。それ故、治療目的により、「ドームトラップ」のトラップメントを最適化する必要がある。そのために、 微粒子のサイズ、形状、表面電荷などの微粒子の表面特性を適切に調整することにより、中分子薬物・高分子薬物の全身作用を目的とした経口製剤または経口ワクチンの開発が可能となる。また、M細胞には、glycoprotein 2, uromodulin (a homolog of GP2), cellular prion protein, annexin A5, peptidoglycan recognition protein-1, β1インテグリン、C5a受容体、CD155などのタンパク質の特異的な発現が報告されている。

図2.小腸上皮細胞とパイエル版

パイエル板(Peyer’s patch)は、小腸の空腸や回腸粘膜表面に存在する、絨毛が未発達な領域であり、哺乳類の免疫器官の1つ。パイエル板は複数のリンパ濾胞が集まった集合リンパ小節であり、個々のリンパ濾胞のなかには活性化した胚中心を持つものが多い。パイエル板にはB細胞が多く集まり、非自己物質に対する抗体産生の場として働く。B細胞が集積したリンパ濾胞はドーム状の濾胞関連上皮(Follicle-associated epithelium, FAE)で覆われる。濾胞の周囲は高内皮細静脈が通りT細胞領域を形成する。FAEと濾胞の間には、樹状細胞やマクロファージが多く集まる。

M細胞はヒトFAEの約5%、腸管表面全体の1%未満しか存在しない。

益財団法人 腸内細菌学会ホームページ参照

M細胞を介した経口DDS

1.脂質粒子:脂質ナノエマルション、グリココール酸封入リポソーム(粒子径150~400 nm)、リガンド(WGA, TL, UEA-1)修飾リポソーム/固体脂質ナノ粒子

2.高分子粒子:ポリアルキルシアノアクリレートサブミクロン粒子(粒子径285 nm)

3. バイオミメティック粒子(組換え細菌):乳酸菌(LAB)、酵母細菌微粒子、植物細胞、サルモネラチフス菌、シゲラ菌

4.ウイルス粒子:ポリオウイルス、ノロウイルス、レオウイルス

M細胞への取り込みに及ぼす製剤側の要因

1.粒子径:M細胞への微粒子の取り込みは粒子径に依存する。一般に、粒子径(1 μm)より小さな微粒子がM細胞に取り込まれやすい。ただし、ポリ乳酸・グリコール酸共重合体(PLGA)微粒子はパイエル板にも取り込まれ、5μm以上の微粒子はパイエル板内に長時間残存し、5μm以下の微粒子は腸間膜リンパ節、脾臓、血液に拡散していることが確認された。有機シリカ粒子のドームトラップへの取り込みは、粒子径95、130、200、340、695および1050 nmの順に小さくなり、粒子サイズの小さな粒子がトラップされやすいことが示唆されている。

2.粒子形状:M細胞への取り込みに対する微粒子の形状に関しては、限られた情報はない。

3.粒子電荷:一般にカチオン性微粒子は、中性微粒子よりM細胞への取り込みは高いと考えられている。しかし、経口投与されたアニオン性金ナノ粒子は、カチオン性金ナノ粒子よりも肝臓・脾臓・腎臓への蓄積が高いことが示されている。

以上のことから、M細胞への微粒子の取込及び「ドームトラップ」の程度に対する製剤学的因子の関与はまだ十分に解明されていないと考えられる。

4.M細胞へのターゲティングリガンド:WGA (Wheat germ agglutinin)、UEA-1 (Ulexeuropaeus agglutinin 1)、RO1 (Recombinant σ1 or OVA- σ1 fusion protein)、LTA (Lotus tetragonolobus from Asparagus pea)、Claudin-4 targeted protein、RGD peptide、CKS9 (CDSTHPLSC peptide)、CPE30 (C terminal 30 amino acids of clostridium perfringens enterotoxin)、SLAA (Sialyl lewis A antigen)、Galectin-9、TGDK、Tetragalloyl-D-lysine dendrimer、FimH、L-HIV (Lymphotropic HIV-1 strain)、ASLF (Anti-sialic acid-binding immunoglobulin-like lectin F) などがM細胞へのターゲティングリガンドとして報告されている。ただし、UEA-1は、杯細胞にも発現していること、また、ヒトのM細胞には結合しないことから、ヒトのM細胞へのターゲティングリガンドとしては有用でないことが報告された。これらを利用するとM細胞への微粒子の取込の向上が期待される。

 以上のことから、M細胞は経口ワクチンの開発に際して有用な細胞であるが、中分子薬物や高分子薬物及び微粒子製剤の全身作用を期待した場合の有用性についての明確ではないと考えられる。今後の研究の発展が期待される。

参考論文

  1. Jianping Qia et al., Exploiting or overcoming the dome trap for enhanced oral immunizationand drug delivery, Journal of Controlled Release 275 (2018) 92–106.
  2. Mohammad Ariful Islama et al., M cell targeting engineered biomaterials for effective vaccination, Biomaterials 192 (2019) 75-94.

参考ウェブサイト

  1. 公益財団法人 腸内細菌学会ホームページ パイエル板とM細胞(Peyer’s patches and Microfold cells)|用語集|腸内細菌学会 (bifidus-fund.jp)
  2. リピンスキーの法則 wikipedia  https://ja.wikipedia.org/wiki/リピンスキーの法則

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