膜透過バリアと酵素的バリアを克服した経口ペプチド製剤:経口セマグルチド錠

吸収促進DDS

インスリンなどのタンパク質性薬物やオクトレオチドなどのペプチド性薬物は、消化管に存在する2つのバリアの存在により経口投与後の消化管吸収性(バイオアベイラビリティ)は極めて低いことが知らている。そのため、タンパク質性薬物やペプチド性薬物は、一般に注射剤として投与されている。

※インスリンは粉末吸入剤(経肺投与)、デスモプレシンやLH-RHアナログなどの一部のペプチドは点鼻液(経鼻投与)製剤が存在する。

【タンパク質性薬物やペプチド性薬物の消化管吸収に対する2つのバリア】
  • 酵素的バリア:消化管に存在するタンパク分解酵素・ペプチド分解酵素による分解
  • 膜透過バリア:消化管上皮細胞表面の脂質二重膜により親水性分子や高分子の透過を制御

しかし最近、製剤技術のブレークスルーが起こり、ペプチド性薬物の経口製剤が登場した。

Rybelsus(リベルサス)®錠(一般名セマグルチド)

GLP1受容体作動薬(2型糖尿病治療薬):遺伝子組換えヒトグルカゴン様ペプチド-1(GLP-1)類縁体。

世界初、唯一の経口GLP-1受容体作動薬

リベルサス®錠は、米国では2019年9月20日に、カナダでは2020年3月に、欧州では2020年4月に承認された。日本では2020年6月29日に薬事承認され、同年11月18日に薬価収載された。2021年2月5日に発売予定。

セマグルチドの分子量・構造

セマグルチドは31個のアミノ酸残基(31個のアミノ酸)から構成され、分子量は4113.5
ヒトGLP-1の7~37番目のアミノ酸に相当
次のアミノ酸が修飾されている。
 2番目のAla:2-アミノ-2-メチルプロパン酸に置換
28番目のLys:Argに置換
リンカー:1,18-オクタデカン二酸が1個のGlu及び2個の8-アミノ-3,6-ジオキサオクタン酸で構成。リンカーは20番目のLysに結合している。
セマグルチドの分子量と構造
リピンスキーのルールオブファイブ

セマグルチドは、リピンスキーの5のルール(ルールオブファイブ)に当てはまることから、消化管膜透過性は低いと予測される。また、セマグルチドは 2 未満及び 6 を超える pH で溶けやすいこと、さらに、胃内のペプチド分解酵素によって分解されやすい性質を有する。

これらのことから、セマグルチドの消化管からの吸収性は極めて低い

それでは、どうすれば経口セマグルチドの製剤化が可能になるのか?

膜透過バリア及び酵素バリアのバリア能を低下させよう!!

リバルサス®の製剤化を可能にした技術

膜透過バリアのバリア能を低下させる方策

吸収促進剤であるSNAC(サルカプロザートナトリウム)を添加

サルカプロザートナトリウム

(吸収促進機構

リバルサス®錠は、服用後、胃内で崩壊⇒SNACの作用により主に胃からのセマグルチドの吸収を促進

SNACは胃粘膜の細胞膜脂質の流動性を増加⇒脂質二重膜を介した細胞内経路によるセマグルチドの細胞内移行を向上⇒血液中に移行

・SNACは、セマグルチドの自己会合を間接的に弱めモノマー化を促進することでみかけの分子量を低下させる。

(特徴的な吸収促進効果)

・SNACの吸収促進効果は、一時的かつ可逆的であるため、生体に有害な物質の吸収を抑えることができる。

酵素的バリアのバリア能を低下させる方策

胃局所でのSNACのpH緩衝作用により、セマグルチドの急速な酵素的分解を抑制

リバルサス®錠の他の薬物動態学的特徴

セマグルチド分子内のリンカーと脂肪酸は、脂溶性が高いことから、血液中のタンパク質であるアルブミンにより結合することで、血漿中に存在するタンパク・ペプチド分解酵素によるセマグルチドの分解を抑制、血漿中での消失半減期を約1週間まで延長させる。

(服用の際の注意)SNACは胃からのセマグルチドの吸収を促進するため、服用時の胃内環境がセマグルチドの吸収率に大きく影響する。すなわち、リバルサス®錠を服用後の絶食時間、飲水量、他の製剤との同時服用、SNACの投与量などは、セマグルチドの吸収量に影響を与える。そのため、服用に際して次のような注意が必要と添付文書に記載されている。

1.本剤の吸収は胃の内容物により低下することから、本剤は、1日のうちの最初の食事又は飲水の前に、空腹の状態でコップ約半分の水(約120mL以下)とともに3mg錠、7mg錠又は14mg錠を1錠服用すること。また、服用時及び服用後少なくとも30分は、飲食及び他の薬剤の経口摂取を避けること。分割・粉砕及びかみ砕いて服用してはならない。

2.本剤14mgを投与する際には、本剤の7mg錠を2錠投与することは避けること。

リバルサス錠3mg, 7mg, 14mg添付文書

参考資料

  1. 図解で学ぶDDS 第2版, 橋田 充, じほう(2016)
  2. 日本薬学会薬学用語解説 ルールオブファイブ – 薬学用語解説 – 日本薬学会 (pharm.or.jp)
  3. リベルサス®錠3mg, 7mg, 14mg添付文書・インタビューフォーム

※ノボ ノルディスク ファーマは、2021年2月5日、本邦において、2型糖尿病を効能・効果とする初の経口GLP-1受容体作動薬・リベルサス錠3mg、同錠7mg、同錠14mg(一般名:セマグルチド(遺伝子組換え))を発売した。薬価は3mg1錠143.20円、7mg1錠334.20円、14mg1錠501.30円。日本ではMSDと共同販促する。(2021年2月11日追記)

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