融合タンパク質
IgG抗体は、生体内で新生児Fc受容体(neonatal Fc receptor; FcRn)を介したリサイクリング機構により分解が抑制されるため、血中半減期が長いことが知られている。一方、サイトカインやその受容体細胞外ドメインなどの機能性タンパク質は、血中滞留性が低い(血中半減期が短い)。これらのことから、機能性タンパク質に遺伝子工学的に抗体(IgG)のFc領域と融合させることにより、タンパク質の生理活性を有するとともに、Fc領域に基づく高い血中滞留性(血中半減期が長い)示す融合タンパク質が構築された。
薬物名 | 商品名 | タンパク質 | キャリア | 適用 |
エタネルセプト | エンブレル | 可溶性TNFR- Fc融合タンパク質 | ヒトIgG Fc領域 | 関節リウマチ |
アバタセプト | オレンシア | CTLA- Fc融合タンパク質 | ヒトIgG Fc領域 | 関節リウマチ |
ロミプロスチム | ロミプレート | Fc-トロンボポエチン 受容体アゴニストペプチド融合タンパク質 | ヒトIgG Fc領域 | 慢性特発性血小板減少性紫斑病 |
アフリベルセプト | アイリーア | VEGFR- Fc融合タンパク質 | ヒトIgG Fc領域 | 加齢黄斑変性症 |
エフラロクトコグ アルファ | イロクテイト | 血液凝固第Ⅷ因子- Fc融合タンパク質 | ヒトIgG Fc領域 | 血液凝固第Ⅷ因子欠乏患者における出血傾向の抑制 |
エフトレノナコグ アルファ | オルプロ リスク | 血液凝固第Ⅸ因子- Fc融合タンパク質 | ヒトIgG Fc領域 | 血液凝固第Ⅸ因子欠乏患者における出血傾向の抑制 |
アスホターゼ アルファ | ストレン ジック | アルカリフォス ターゼ- Fc融合タンパク質 | ヒトIgG Fc領域 | 低ホスファターゼ症 |
エタネルセプト:エンブレル®
エンブレルは、ヒトTNF 可溶性レセプター部分が、過剰に産生された TNFα及び LTαを、おとり受容体として捕捉し、細胞表面の受容体との結合を阻害することで、抗リウマチ作用、抗炎症作用を発揮すると考えられている。なお、エンブレルと TNFα及び LTαとの結合は可逆的であり、いったん捕捉した TNFα及び LTαは再び遊離される。

アバタセプト:オレンシア®
オレンシア®は、ヒト細胞傷害性 T リンパ球抗原 -4(CTLA-4)の細胞外ドメインとヒト IgG1 の Fc ドメイン(ヒンジ -CH2-CH3 ドメイン)より構成された遺伝子組換え可溶性融合タンパク質である。関節リウマチ(RA)における炎症応答の上流に位置する抗原提示細胞と T 細胞間の共刺激シグナルを阻害することで T 細胞の活性化を抑制し(in vitro)、T 細胞増殖や下流の炎症性サイトカインの産生を抑制する。さらに近年、オレンシア®は、T細胞とB細胞の相互作用も阻害することや、リウマトイド因子・抗シトルリン化蛋白抗体(ACPA)の産生を抑制することも報告されており、オレンシア®の抗炎症作用が自己抗体を介するものである可能性が示唆されている。
【参考資料】
- 図解で学ぶDDS 第2版、橋田 充 (監修), 高倉 喜信 (編集)、じほう(2016)
- ドラッグキャリア設計入門 DDSからナノマシンまで、片岡 一則 (編集), 原島 秀吉 (編集)、丸善出版(2019)
- エンブレル® 医薬品インタビューフォーム
- オレンシア® 医薬品インタビューフォーム
【参考ウェブサイト】
- オレンシア®ウェブページ https://www.orencia.jp/orencia/index
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