
潰瘍性大腸炎に対する経口放出制御製剤
経口放出制御製剤の中で今回は炎症性腸疾患(主に、潰瘍性大腸炎とクローン病)に対するドラッグデリバリー(DDS)製剤について取り上げる。
【潰瘍性大腸炎】2020年8月28日安倍晋三氏は内閣総理大臣の辞任を発表した。理由は、同年8月上旬に持病である潰瘍性大腸炎の再発が確認されたとのことである。安倍総理が2007年8月に総理を辞任した理由も同じ病気であった。潰瘍性大腸炎は、「主として粘膜を侵し、しばしばびらんや潰瘍を形成する大腸の原因不明のびまん性非特異性炎症である。」と定義される。わが国での患者数は、17万人(男性10万人、女性7万人)、最多年齢40代、大腸から直腸にかけての炎症部位、10年間の手術率24%、がんの合併は可能性ありと報告されている。
【潰瘍性大腸炎治療指針】
・緩解導入療法
商品名 | 薬物 | 適用疾患 | 薬物放出部位 | 発売年月 |
ペンタサ錠 | 5-アミノサリチル酸(5-ASA、メサラジン) |
潰瘍性大腸炎及びクローン病 |
小腸~大腸 | 2008年10月 |
サラゾピリン錠 | サラゾスルファピリジン(プロドラッグ) |
潰瘍性大腸炎 |
大腸の腸内細菌のアゾリアクターゼにより5-ASAを放出 | 2009年1月 |
アサコール錠 | 5-アミノサリチル酸(5-ASA、メサラジン) |
潰瘍性大腸炎 |
大腸 | 2009年12月 |
リアルダ錠 | 5-アミノサリチル酸(5-ASA、メサラジン) |
潰瘍性大腸炎 |
大腸全域 | 2016年11月 |
国内で承認されている経口5-ASA製剤の用法・用量
商品名 | 用法・用量 |
ペンタサ錠250mg/500mg | 通常、成人にはメサラジンとして 1 日 1,500 mg を 3 回に分けて食後経口投与するが、寛解期には、必要に応じて 1 日 1 回の投与とすることができる。なお、年齢、症状により適宜増減するが、1 日 2,250 mg を上限とする。ただし、活動期には、必要に応じて1 日 4,000 mg を 2 回に分けて投与することができる。 |
サラゾピリン錠500mg | 通常 1 日 4~8 錠(2~4 g)を 4~6 回に分服する。 症状により初回毎日 16 錠(8 g)を用いても差しつかえない。 この場合 3 週間を過ぎれば次第に減量し、1 日 3~4 錠(1.5~2 g)を用いる。 ステロイド療法を長期間継続した症例については、サラゾピリン4 錠(2 g)を併用しながら、徐々にステロイドを減量することが必要である。 |
アサコール錠400mg | 通常、成人にはメサラジンとして 1 日 2,400 mg を 3 回に分けて食後経口投与するが、活動期には、1 日 3,600 mg を 3 回に分けて食後経口投与する。なお、患者の状態により適宜減量する。 |
リアルダ錠 | 通常、成人にはメサラジンとして1日1回2,400mgを食後経口投与する。活動期は、通常、成人にはメサラジンとして1日1回4,800mgを食後経口投与するが、患者の状態により適宜減量する。 |
サラゾピリン錠(サラゾスルファピリジン)の製剤学的特性
サラゾスルファピリジンは、メサラジンとスルファピリジンがアゾ結合されたプロドラッグである。2009年サラゾピリン錠500mgが上市された。経口投与すると胃や小腸からは吸収されずに、大腸に90%以上が送達される。大腸では、腸内細菌のアゾリダクターゼによってメサラジンとスルファピリジンに分解される。しかし、スルファピリジンは大腸から約30%が吸収され、血中に移行後、消化器症状や男性不妊といった副作用の原因となることが報告されているため、メサラジンのみを含有する製剤の開発が行われた。
ペンタサ錠(メサラジン)の製剤学特性
5-ASAを水に難溶性のエチルセルロースでコーティングすることにより、経口投与後、胃および小腸において製剤から薬物を徐々に放出(徐放出)し、大腸でも薬物が放出されるように工夫された時間依存型DDS錠剤である。ペンタサ錠500mgが2008年10月に上市された。小腸に病変部を有するクローン病に対しても効果を示す一方、潰瘍性大腸炎に対しては、胃・小腸において製剤から約50%が錠剤から放出するため、大腸に到達する薬物が減少するため、サラゾスルファピリジンよりも有効性が低下すると報告された。そのため、ペンタサ錠に加えて、坐剤(サラゾピリン坐剤、ペンタサ坐剤)やステロイド注腸製剤(レクタブル2mg注腸フォーム)などの局所製剤が併用されている。さらに、5-ASAの高用量化に対応するため、2015年12月ペンタサ顆粒94%が上市された。
アサコール錠(メサラジン)の製剤学特性
メサラジンをEudragit-S(オイドラギットS, メタクリル酸/エチルアクリレート(1:2), 溶解pH=6.8以上)でコーティングすることにより、約pH 7以上を示す小腸下部(回腸)から大腸にかけて、錠剤からメサラジンが放出するpH依存型放出制御錠剤である。アサコール錠を経口投与後、約90%のメサラジンが大腸まで到達するため、メサラジンが大腸の病変部位で高濃度に存在するため潰瘍性大腸炎に対する治療効果の改善につながると推測される。しかし、潰瘍性大腸炎の活動期では大腸管腔内のpHが少し酸性側に傾くため、アサコール錠からのメサラジンの放出が十分に行われずに、病変部位での薬物濃度が低下する可能性が示唆されている。
リアルダ錠の製剤学特性
リアルダ錠は、メサラジンを親水性基剤及び親油性基剤からなるマトリックス中に分散させた素錠部に、pH 応答性の高分子フィルムをコーティングすることで、メサラジンを標的部位である大腸に送達し、大腸全域へ持続的に放出する錠剤である。そのため、時間依存型製剤とpH依存型製剤の両方の性質を有する1日1回投与が可能な錠剤であり、服薬アドヒアランスの向上が期待されている。
リアルダ錠は、Cosmo Pharmaceutical 社(アイルランド)が開発したメサラジンの経口DDS製剤。本剤はメサラジンを親水性基剤及び親油性基剤からなるマトリックス中に分散させた素錠部に pH 応答性の高分子フィルムによるコーティングを施している。そのため、胃内および小腸付近でのメサラジンの放出が抑制され、本剤が大腸付近へ移行すると、高分子フィルムが溶解して素錠部が腸液にさらされ、親水性基剤及び親油性基剤が腸液の素錠部内部への浸透を抑制し、メサラジンが徐々に消化管中に放出される。すなわち、本剤はメサラジンを標的部位である大腸に送達するとともに、大腸全域に持続的に放出することが可能な放出制御製剤である。
製剤技術「MMXテクノロジー」:直腸まで大腸全域をカバー
MMXテクノロジー:Multi Matrix System
リアルダ錠の構造

pH応答性コーティング:潰瘍性大腸炎の病変部位である大腸に薬物を送達
親水性基剤と親油性基剤のマルチマトリックス:大腸(直腸含む)全域へ持続的に薬物を放出
リアルダ錠の組成
有効成分 | 1錠中 日局 メサラジン 1200mg |
添加剤 | カルメロースナトリウム、カルナウバロウ、ステアリン酸、含水二酸化ケイ素、デンプングリコール酸ナトリウム、タルク、ステアリン酸マグネシウム、メタクリル酸コポリマーL、メタクリル酸コポリマーS、クエン酸トリエチル、酸化チタン、三二酸化鉄、マクロゴール6000 |
組成 | 添加剤 | |
pH応答性コーティング | メタクリル酸コポリマーL、メタクリル酸コポリマーS | |
マルチマトリックス | 親水性基剤 | カルメロースナトリウム |
親油性基剤 | カルナウバロウ、ステアリン酸 |
その他の潰瘍性大腸炎治療薬
2009年7月適用追加 カルシニューリン阻害薬 プログラフカプセル0.5mg, 1mg, 5mg(タクロリムス水和物)
2010年6月適用追加 抗TNF-α抗体製剤 レミケード点滴静注用100(インフリキシマブ「遺伝子組換え」)
2013年6月適用追加 抗TNF-α抗体製剤 ヒュムラ皮下注40mg, 80mg(アダリムマブ「遺伝子組換え」)
2017年3月適用追加 抗TNF-α抗体製剤 シンボニー皮下注50mgシリンジ(ゴリムマブ「遺伝子組換え」)
2018年5月適用追加 JAK阻害薬 ゼルヤンツ錠5mg(トファシチニブクエン酸塩)
2019年5月適用追加 抗ヒトα4β7インテグリンモノクローナル抗体製剤 エンタイビオ点滴静注用300mg(ベドリズマブ(遺伝子組換え)
参考資料
- 潰瘍性大腸炎・クローン病診断基準・治療指針、令和元年度 改訂版(令和2年3月31日)
- 炎症性腸疾患治療におけるDDS-現在と未来-、増田智先、山本由貴、Drug Delivery System, 33(5), 397-405.
- リアルダ錠1200mgに関する資料 持田製薬株式会錠
- 潰瘍性大腸炎治療剤メサラジン リアルダ®錠1200mg インタビューフォーム(2020年7月改定)
- 潰瘍性大腸炎治療剤メサラジン リアルダ®錠1200mg 添付文書(2019年11月改定(第1版)
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