吸収改善とは?
吸収改善とは、疎水性薬物の溶解性や親水性薬物や高分子量薬物の膜透過性を高め、分解・代謝を抑制することにより薬物の体循環への移行性を高めることである。
ドラッグデリバリーシステム(DDS)分野では、一般に、溶解性改善に伴う吸収向上(広義のDDS)よりも、生体膜透過促進(狭義のDDS)を指すことが多く、血液脳関門(BBB)や消化管以外の粘膜の透過性改善も含む。
吸収改善の意義
・優れた薬理作用を持つ物質であっても、生体内に吸収されなければ薬物の効果を発揮できないことから、その有効性を発現させるには生体内に吸収させることが必要。
・吸収の悪い薬物の吸収を向上させれば、少量で効果的に薬効を発揮させることができ、不要な薬物による副作用を抑制できる。
・注射以外の各種投与経路を利用した簡便かつ正確な薬物投与が可能になる。
・血液脳関門(Blood-brain barrier, BBB)、血液脳脊髄液関門(Blood-cerebrospinal fluid barrier, BCSFB)、血液網膜関門(blood-retinal barrier;BRB)、血液胎盤関門(blood-placenta barrier, BPB)、血液腫瘍関門(Blood-tumor barrier, BTB)、血液乳腺組織(乳)関門(blood-mammary tissue barrier)などの様々な関門や鼻脳ルートなどの生体内障壁の制御への応用が可能になる。
吸収改善の種類(広義)
難水溶性薬物(Biopharmaceutics Classification System (BCS) class II, IV 薬物)の溶解性の向上(狭義の吸収改善)、膜透過性改善、安定性改善、新しい投与経路の開発による吸収改善が含まれる。
改善方法 | 具体的な手法 |
溶解性改善 | 可溶化剤, 固体分散体, 固溶体, 非晶質化, 複合体化, コクリスタル, エマルション製剤 |
膜透過性改善 | 1.物理的方法 イオントフォレシス, ソノフォレシス, エレクトロポレーション, メソポレーション,ソノフォレシス,マイクロニードル,無針注射器,ポンプ無針注射(圧力) 2.生物学的方法 吸収促進剤, 膜透過ペプチド(CPP), 薬物排出ポンプ阻害剤, 粘膜付着性製剤, 粘膜付着性製剤 3.化学的方法 プロドラッグ, ドラッグキャリ, トランスポーター基質化,CPP修飾,ドラッグ キャリア(リポソーム,シクロデキストリン,デンドリマーなど)の利用 |
安定性改善 | タンパク分解酵素阻害剤, 核酸分解酵素阻害剤, 薬物動態学的増強因子(ブース―ター) |
新しい投与経路の開発 | 経皮投与, 経直腸投与, 経鼻投与, 経呼吸器投与, 経膣投与, 経眼投与, 脳室内投与, 髄腔内投与, 経耳投与 |
吸収改善の手法(広義)
吸収改善の手法 | 概要 |
化学的手法 | 薬物分子の化学的および物理化学的性質の改善 |
物理的手法 | 製剤学的な手法 |
生物学的手法 | 生体側の要因の制御 |
代表的な吸収改善を目的とした製剤
商品名 | 薬物 | 投与経路 | 吸収改善手法 | 概要 |
ネオーラル®内用液、カプセル剤 | シクロスポリン | 経口 | 溶解性改善 | 自己乳化型マイクロエマルション製剤(SMEDDS) シクロスポリンの吸収のバラツキ低下や食事や胆汁酸の影響を軽減 |
リベルサス®錠 | セマグルチド(遺伝子組換え) | 経口 | 吸収促進剤 | セマグルチドは、ヒトGLP-1 アナログ であり、内因性 GLP-1 が 標的とするGLP-1受容体と選択的に結合し、cAMP放出量を増加させるGLP-1受容体作動薬として作用する。アルブミンと結合して代謝による分解の遅延及び腎クリアランスの低下を示 すと考えられ ており、またアミノ酸置換 によりDPP-4 による分解に対して抵抗性を示すことにより、作用が持続する。また、吸収促進剤であるSNAC(サルカプロザートナトリウム)を含有することで、胃でのタンパク質分解からセマグルチドを保護し、主に胃からの吸収を促進して、経口投与が実現した。 |
ネオドパストン®配合錠 | レボドパ・カルビドパ水和物 | 経口 | 末梢性脱炭酸酵素阻害剤 | カルビドパ水和物は、BBBを通過しないため、脳内の脱炭酸酵素を阻害せず、抹消の末梢性脱炭酸酵素を阻害する。経口投与されたレボドパの抹消での脱炭酸酵素による分解をカルビドパが抑制するため、レボドパの脳内移行量が増大し、投与量の節減が可能となる。 |
プレジコビックス®配合錠 | ダルナビル エタノール付加物、コビシスタット | 経口 | 薬物動態学的増強因子(ブースター) | コビシスタットは、薬物代謝酵素であるチトクローム P450 3A(CYP3A)の働きを阻害することにより、CYP3Aの基質となる薬物(ダルナビル)の有効血中濃度を維持する。薬物動態学的増強因子(ブースター)と呼ばれる。 |
ヘルペン®坐剤、アンピレクト®坐剤 | アンピシリン | 直腸 | 吸収促進剤 | アンピシリンの小児用坐剤。吸収促進剤としてカプリン酸ナトリウム(C10)が配合されている。 |
エポセリン®坐剤 | セフチゾキシムナトリウム | 直腸 | 吸収促進剤 | セフチゾキシムナトリウムの小児用坐剤。吸収促進剤としてカプリン酸ナトリウム(C10)が配合されている。 |
ロコア®テープ | エスフルルビプロフェン | 経皮 | 吸収促進剤 | エスフルルビプロフェンとハッカ油を有効成分とするテープ剤。1日1回の貼付で、優れた鎮痛作用・臨床症状の改善が期待できる。 |
IONSYS® | フェンタニル | 経皮 | イオントフォレシス | 患者さんが腕や胸部に貼付されたカード大の本剤上にあるボタンを自ら押すことにより、微弱な電流を流すことでイオン化された薬剤を経皮的に吸収させる技術「イオントフォレシス」を用いたフェンタニルの貼付剤。手術後の自己調節鎮痛(Patient Controlled Analgesia, “PCA”)に用いられる。 |
Intanza® | インフルエンザウイルススプリットワクチン | 経皮 | 皮内注射 | 独自のmicoinjectionシステムを使用して皮内に送達される不活化インフルエンザワクチン。皮下投与用針に比べ、細く短い針を用いることから、 針刺し時の痛みや精神的負担の軽減などが期待できる。 |
グロウジェクト®注射用8mg | ヒト成長ホルモン | 経皮 | 注射 | 注射針のない注射器(ツインジェクター®EZⅡ)を用いて、高圧で溶液が発射され、圧力によって薬物を皮膚に送達させる。 |
Afrezza® (アフレッッア) | インスリン | 経肺 | 吸入剤 | 世界初のインスリン吸入製剤であるEXUBERA(エグゼベラ)は、2006年に米国で上市されたが、2008年に販売中止された。本品は、2014年米国FDA において認可された手のひらサイズの吸入デバイスで、吸入特性に優れた優れた粒子化技術(Technosphere)を用いて、超速効型で最も早い効き目を示すインスリン吸入製剤である。 |
参考資料
- 1. 図解で学ぶDDS 第2版, 橋田 充, じほう(2016)
- 2. ネオーラル®内用液、カプセル剤内用液 添付文書・インタビューフォーム
- 2. リベルサス®錠 添付文書・インタビューフォーム
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